諸悪のもと?

お知らせ

「家庭の幸福は諸悪の本(もと)」

といったのは、入水自殺する前の太宰治だ。

傍から見ると、太宰は富豪の家に生まれながら幸福な「家庭」で育った(育てられた)ように見えないし、

自分がつくった「家庭」も作品から伺う限り「幸福な家庭」とは思えない。

自分がつくった家庭に付きまとう不幸の影は、殆んど太宰自身が生み出したもので、

小市民的な価値から見れば、家庭人失格の典型のような生涯を送っている。

もちろん、小市民の価値や倫理で作家・太宰治を捕らえてもほとんど意味はないが。

 

 

妻・美知子との間に1男2女をもうけるも、ダウン症の長男を早くに亡くしている(太宰の死後)し、

愛人・太田静子との間にも1女をもうけている。

(作家・太田治子のことだが、字面からすると「治の子」になる。妻・美知子にとっては辛い名前だろう)

終戦直後の社会の価値観が、こうした太宰の行動を認めていたとも思えないから、

ある場面では当然周囲から指弾されたのではなかろうか。

家庭の外に子供を作るということはきつい選択と思うが、

作品にはそのことに対して苦悩する場面はあまり見られない。

ふたりの女が生んだ子供が、それぞれ父と同じ作家の道(もう一人は津島祐子)を歩むということも、

<業>の深い太宰を象徴しているかも知れない。

 

 

よく知られているように、玉川上水に入水心中した相手(山崎富江)は戦争未亡人で、

太宰の「死ぬ気で恋愛してみないか」という口説き文句にほだされたようだが、

まったく臆面もないセリフで、赤面したくなる口説き文句だと思う。

まさか心中相手を捜していた訳でもないと思うが・・・。

女と心中する際の妻・美知子への遺書に「誰よりも愛していました」などと書く神経も、

小市民から見るとよく判らない。

まあそこが太宰の太宰たる所以といえようが。

 

 

と、まあよく知られた太宰治の周辺を表面的になぞって書いたのは、

「家庭の幸福は諸悪の本」と似たようなセリフを偶然2回投げかけられたからだ。

曰く「喫煙は諸悪のもと」

 

 

暮も押し迫ったころ、急にめまいが始まった。

寝ていても頭がぐるぐる回ってえらく調子が悪い。

おかげで恒例の正月の薪窯も中止にしたほどだった。

知人が脳梗塞で寝たきりになったことなどもあり、脳神経外科を訪れ脳波や脳血管の検査などをしたが異常なし。

血液検査もやったが、血糖値が高いくらい。

ついでのように血糖値を下げる薬というものを初めて処方されたが、もうじき「高齢者」だからどこそこガタは来る。

 

 

結果を聞きながら、私としては一過性のめまいで、ストレスによる体調不良若しくは更年期障害(どうもこれらしい!)と思っていたところ、

検査結果の説明時にドクターが喫煙を問うてきたので、日に30~40本ほどと答えた。

どうした訳か喫煙の方に話が流れ、「禁煙外来」を受診せよと言われ喫煙の害について説明が始まった。

もちろん、ドクターは患者の健康を気遣ってのことだろうが、

私自身は彼が言う程喫煙が自分の健康を害しているとの自覚がないので、「減らすよう努力します」と答えた。

 

 

年が明け、別のドクターから同じ言葉を言われた。

15年ほど前から鼻腔にポリープがあり、薬で付き合っていたが月一度の通院が面倒になり、切除を決心して病院に行ったところ、

またも喫煙を問われた。

同じ質問に同じ答を口にしたところ、

「手術までに煙草をやめるように」と指示され、「煙草は健康に害があります」と諭された。

 

 

最近の風潮では、喫煙は軽犯罪視され、喫煙者としては肩身の狭い思いをしている。

「受動喫煙」という、煙草を吸わない人に健康被害を及ぼすことには喫煙者は誰もが注意している(そうしないと安心してタバコが吸えない)が、

どうも世の中はその程度では許容しなくなったようだ。

喫煙者は「健常者失格」の烙印を押されるような気がする。

「人間失格」ではないからまだいいが、そのうち筒井康隆の『最後の喫煙者』のような「喫煙者狩り」が始まる気さえする。

 

 

私自身はニコチン依存が激しいと思っているが、依存する対象は多分たばこのみだ。

しかし、煙草を酒のように他人に勧めることもないし、ひとから勧められて吸うこともない。

この点で私にとっては煙草は酒よりも罪が軽いと思う。

酒席などで他人に酒を強いる輩がいるが、煙草にはそれがない分ましだろう。

 

 

健康を害することを承知で煙草を吸うのは全く個人の自由だと思っているし、

なにより、チューショー企業の経営ストレスを煙草で解消して乗り切ってきたと確信している。

自死した友人に「命をカンナで削るようにして」会社を廻した男がいたが、チューショー企業主は誰だって多かれ少なかれ命を削って会社を廻している。

だから私にとってたばこは何とか会社を廻す代価だと思っている。

 

 

↓窯変砧

ガスや電気で焼いたもので、気に入らないものを「焼き直し」で薪窯に入れることがある。

高温で長時間焼くことになるので、ほとんどの場合釉薬が棚板に付いてしまい失敗するが、

たまにいい変化のものが取れることがある。

自然にかかった薪の灰と釉薬がうまく調和するとガスや電気では絶対出ないものが採れる。

確率は最悪だが、素人の割に多作だからあまり惜しくもない。

数より質か。

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