戦いすんで日が暮れて(GW穴窯焼成)

お知らせ

GWの薪窯は今までになくトラブル続きできつかった。

いつも二の間の焼き上がりが悪いので、今回初めて二の間を空のまま焚いたのだが、

初日の夜、温度が750度近くになった時、突然正面の薪投入口と空気取り入れ口(直径10cmほどの穴)からバックファイアーが起きた。

多分一の間と二の間の温度差が大きく、かつ二の間の火吹き孔を塞いだままだったので溜まった圧力が焚き口や空気孔に逆噴射したのだろう。

いつもは二の間の火吹き孔を開けておくのだが、今回は何も入れないから面倒だと完全に密封したことが原因だと思う。

大きな音と炎が大砲のように前面に噴出した。

 

 

たまたま、少し離れた椅子に座っていたので何事もなかったが、危機一髪だった。

日頃、物作りで一番の敵は「面倒だと基本を端折って手を抜くこと」と自戒し、

社員にも口を酸っぱくして言っているが、このミスを犯したことは慣れからの油断で手抜きの結果だろう。

少し慣れると馬鹿ほど図に乗り、調子に乗るが私がその典型だ。

三成先生に「少しでも基本を手抜くとその先に大きな失敗が生まれる」といつも言われていたのに・・。

 

 

 

2日目の夜、腰がムズムズし始めたと思ったら急に激しく痛み始めた。

窯詰め以来ずっと無理を重ねたので、最初は疲労から来る腰痛かと思い湿布を張ったりしたが痛みが増すばかり。

そのうち腰を曲げることもできなくなり、「ぎっくり腰」と思い当った。

「ぎっくり腰」は20年ほど前に一度経験しているが、その時の痛みは今思い出しても寒気がするほどだ。

生来「痛み」に対して抵抗力が無い気質、体質だから痛みを我慢することができない。

立っも座っても差し込む痛みだったが、焼成を中止するわけにもいかず腰痛ベルトをしたり、マッサージ器を当てたり、

思いついて先月の手術後にもらった病院の残りの鎮痛剤を飲んだりして何とか焚きあげた。

それにしても、鎮痛剤は6時間経過しなければ服用不可というものだったが、ほぼ6時間すると痛みがぶり返すからその薬効の正確さに感動した。

焼成が終わってから医者に行ったら「ぎっくり腰」には鍼が一番とのこと。3度目は御免こうむるが、万一のために覚えておこう。

 

 

2日目の昼になったら温度計が突然上昇しはじめた。

薪窯は温度が急に上がるものではないから、温度計の故障か熱電対(窯の中の温度を拾う器具)の故障と思い、

予備の温度計に変えたり、熱い窯の上に乗って熱電対を引き出したりしたが、どうも熱電対と温度計を繋ぐ細い熱線が窯の放熱で狂ったようで、

配線位置を変えて何とか正常に戻った。

温度計が使えなくても中止つもりはなかったが・・。

 

 

予想外のことが起きた時、元の状態に戻す手立てを探して悪戦苦闘するか、それとも諦めて引き返すか、

選択を迫られることはよくあることだが、私の場合日常の場面では諦めが早いほうだが、

ことやきものに関しては結構しつこく次善の策を探す。

やきものに関してだけはあきらめが悪いと自覚している。

このしつこさを仕事の場面で発揮できていたら会社はもっと成長していただろう。

 

 

二の間からのバックファイアーで上段に置いた壺が火床まで吹き飛ばされ、それ以外に7~8本の花入が倒れ込み、

他の作品とくっ付いてしまった。詳細は写真をご覧いただきたい。

温度は目標の1300度に達したようだが、過酷な炎の洗礼を受けた作品のうち何割が無事生還するか不明だ。

1300度に達した分、耐火度の低い土のものはへたったり割れたりしている。

もともと電気やガスで焼く土を薪窯で焼いたのだから、ヘタるのはよくあることだ。

電気やガス用の作品を穴窯に入れれば失敗することは今までに学んでいるが、ほんの少しの可能性だが無事焼きあがると、

驚くほどいいものが採れることがあるから勝算のない無謀を繰り返す。

 

 

腰の痛みに耐え、窯焚きが終わった時からずっと身体を満足に動かすこともできず、老人のような歩き方で過ごした。

気に入ったものが採れれば痛みに耐えた時間も報われると思うが、こればかりは願うようにはいかない。

費やした苦労や努力、計画、時間が自分の思うような(願うような)結果を生み出すのならば、誰だって苦労や努力はいとわない。

そうはならないから悔恨や嘆き、失望など苦悩の種が芽吹くのだろう。

 

 

この齢になったからか、それとも窯焚きで何度も同じ思いを味わっているからか、

人生は願うようには展開しないというのが私の確信で、「仕方がない」という受け入れ能力だけは成長し続けている。

「仕方がない」という受け入れ能力の向上は老化の進行以外の何物でもないのだが・・。

 

 

↓ ↓ ↓ ↓

5/8(日)にぎっくり腰をかばいながら窯出しをした。

良くも悪くも結果は早く知った方が次に進める。

バックファイアーで倒れて近くの作品とくっ付いてしまった様子がご覧頂けるだろう。

耐火度が低くへたったものや棚に倒れ込んだものなど、本当に穴窯は失敗が多い。

写真はくっ付いたものや割れたり切れたりしたものの一部。どうにもならなくて窯の中で金づちで割ってしまったものもある。

気に入っていた尊式花入は筒ものとくっ付いてしまった。

土間の写真はそこかしこに疵もあるが、目土をうまく剥がせば何とかなりそうなもの。

撮影後に運ぶ途中で倒して割ってしまったものもある。

将のミスで兵を死なせたり負傷させたりしたが、ともかくGWの戦いは終わった。

これからゆっくり仕上げに入る。

 

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