だから、休むのだ!
「だから、休むのだ。伸びきったゴムは切れやすい。」
私の一番古い記憶として残る箴言は、『赤胴鈴の助』と言う漫画に出て来たこの言葉になる。
確か、主人公・鈴の助がライバル(記憶では「イタチロー」と言う名前だった。字は不明)と雌雄を決するに当たり、
毎日毎晩稽古を繰り返し疲労が頂点に達した時、師の千葉周作が掛けた言葉。
記憶の主旨は正しいが、物語は江戸時代だから「ゴム」と言う言葉は存在しないはずで、
ひょっとすると『ひも』だったかもしれないが、50年以上「ゴム」で記憶している。
人間の記憶は、結構その人に都合よく時間の経過と共に変化するというから、
私のこの記憶も変化しているかも知れない。
記憶としては鮮明であるが、今では確かめようもない。
生来「休む」ことがあまり上手い方ではなく、うまく休めた経験が少ない。
そしてチューショー企業主の性か、休みの日も翌日からの仕事の流れを考えてしまう。
公私の切り替えは経験を重ねてうまくなったと思うが、休みにどっぷり浸かることはなかなか出来ない。
加えて、能率よく仕事をこなせないからどうしても仕事時間が長くなり、休みが少ない。
始末の悪いことに、サラリーマン時代から休みの日にも仕事をする自分が嫌いではなかった。
人より能力の落ちる私が人並みに成果を出そうとすれば、人より余分に仕事をする以外方法はないと思っている。
「働き蜂」と言われた昭和世代は、仕事そのものより「働く自分」が好きな人が多かったのではないかと思う。
育った時代や環境のせいであろうが、子供の頃、父母や周りの大人がゆっくり休んでいる姿を見た記憶は殆どない。
敗戦からの復興が落ち着き始め、経済がダイナミックに上昇し始めたころ誰もががむしゃらに働いていた。
そんな記憶や雰囲気が頭に刷り込まれているから、今もって「切れやすいゴム」の毎日だ。
週休2日の時代になって久しいが、1年を通じて2日間以上の休日を取ることが出来るのは、
盆暮とGWくらいしかない。
格別の不自由やきつさも感じないが、こうした感覚はとうに時代おくれなのだろう。
働くことが得意で、休むことがうまく出来ないのは個人的資質だから、
ほかの人に求めるつもりは全くないが、
今思うと、仕事を理由に家庭を放置したことがあったかもしれない。
公共工事を請け負っていると例年年度末は「猫の手も借りたい」時期になる。
加えて、春の足音とともに降雨日が増え出し、工程が大きく崩れ、遅れてくる。
この時期のきつさは毎年のことだが、「雨の一日は晴の三日」に当たるほど雨は工程のブレーキになる。
昔から「土方殺すに刃物はいらぬ。雨の三日も降ればよい」と言われたものだが、
私の会社のように舗装工事を中心に営業展開していると、まさしくこれを実感する。
「1月行く月、2月逃げる月、3月去る月」と言う言葉は、建設業界に働く人間をせわしなく追い立てる言葉で、
覚悟はしているが、例年正月明けは辛い3か月だ。
30数年辛い3か月を経験してきたが、雨には勝てない舗装業だからじたばたしても仕方がない。
来週の天気予報を見ると水、木と雨!でまたまた工程が狂うが、
遅れを取り戻すため、来週はますます加速しなくてはならない。
こうなるとバカボンパパの口調で自虐的に言うしかない。
「だから、休むのだ!」
(鉄赤釉灰被り筒)